2011-05-27

裸のラリーズ:オフィシャルビデオに引用された文学作品

■0:00:35頃

ぼくにそれをつげるべきだ。地獄がそれほど人間のちかくにあるとしったなら、ぼくの心はよろこびにときめくのだもの。これをもって、ぼくの祈祷のさいごの 節としようとおもう。されば、もういちどだけあなたをたたえて、訣れをつげよう! 水晶の波涛の老いたるわだつみ……。ぼくの目はあふれる涙にかすみ、あ とをつづける力もない。あの残忍な顔をした人間どものあいだに、ふたたび帰るべき時がきたのをかんじるからだが、しかし……勇気だ! おおいにがんばろ う、義務だとおもって、この地上のあとの運命をはたすのだ。ぼくはあなたをたたえよう、老いたるわだつみ!

ロートレアモン 『マルドロールの
歌』
(「第一の歌」のほぼ中ほどにある一節。栗田勇訳。『筑摩世界文学大系 88 名詩集』所収の抄訳では406頁。同訳者による全訳は角川文庫から出ていて、そちらだと33頁。ただし、私がもっている文庫本は昭和55年発行の古 い版のため、現在入手できる「角川クラシックス」シリーズの同作とは版組に異同があるかもしれない。この散文詩の邦訳は他の訳者によるものもいくつか出て いるが、世代的にいって、M氏が読んだのはこの栗田訳のはずなので、これを掲げた。)


■0:51:03頃

「金はいらないよ。きみの時間がほしい」
「わかんないな」
「ほしいのは注射か? ストレートか? それともヌードか?」
船乗りはなにかピンク色のものを手のひらの中に入れていて、焦点のない震え方をしていた。
「そうだな」

ウィリアム・S・バロウズ 『裸のランチ』
(「裸のランチ」ウィリアム・バロウズ著、鮎川信夫訳、河出書房新社、284p)

■1:06:51頃

夜のパリ
これは市ではない。世界なのだ。

海だ。なんという静かな海だ。
潮はいまや、はるかかなたに轟き、とおのこうとしている。
波は鈍い音をたてて岸辺へもどる。
きこえないか、夜の蟹の引っ掻く音が。

ここは乾いた冥府の河だ。
屑屋のディオゲネスが手にカンテラをもってぶらぶらやってくる。
へそ曲がりの詩人たちは黒い流れにいつまでも漁をする。
彼らの空っぽの頭蓋は餌箱にもってこいだ。

ここは野っ原だ。身の毛もよだつような怪鳥が
穢らしいボロをひろうために羽ばたきながら旋回する。
猫の奴が鼠をめがけて、あの夜の収穫者たち、
ボンディーの少年たちからにげだす。

ここは死だ。お巡りがやられた。二階の部屋では、
女が肥った腕の肉を吸いながら憩う。
女の接吻は赤いしみをのこす。
あるものは時間だけだ、おきき、夢は身動きひとつしない。

ここは生だ。おきき、モルグのベッドのうえに目を大きくひらいて、横たわった
真青な手足をした海神のねばつく頭のうえで
きよらかな水が永遠の唱をうたう。

トリスタン・コルビエール 『黄色い恋』

(篠田一士訳。『筑摩世界文学大系88 名詩集』の401-402頁所収。この翻訳集では、先述したロートレアモンの詩の直前にこれが載っている。 「HEAVEN」誌がラリーズの写真をたくさん掲載した際に、この詩の一部分が併載されていたので、読みおぼえのある方も多いのでは。また「夜の収穫者た ち」という曲名の出所はこの詩にあった。この著名な訳者は博覧強記で知られているが、もともと英米文学畑の人であり、少なくともこの詩の翻訳に関しては、 訳語の選択や動詞の時制などの点で少々不正確さが残るといわざるをえない。)

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