2011-05-27

裸のラリーズ:「宿命ーよど号亡命者たちの秘密工作ー」 高沢皓司 著 新潮社 より抜粋

・・・もちろん、この謀議に加わった者の中にも別の夢を見ている者もいた。
「行きたくありません」
最後までそう言い続けた人間もいた。肩までかかる長髪の男だった。彼は赤軍派の活動家であると同時にミュージシャンの夢をも持ち続けていた。革命運動と 音楽活動の組み合わせは奇異な感じを与えるかもしれないが、当時、両者の間にそう大きな矛盾はなかった。たとえば「よど号」グループの古い指名手配写真に は、長髪で写っているもう一人の男がいる。現在、北朝鮮で「よど号」グループのスポークスマンを務める若林盛亮だが、彼もまた「裸のラリーズ」というGS バンドを率いて一部に熱心なファンを持っていた。また、ロック・グループ「頭脳警察」は「世界革命戦争宣言」という曲を、赤軍派のアピールそのものを歌詞 としてステージで歌い続けていたのである。
東大安田講堂の攻防戦以来、これまでと同じ闘い方に疑問を持ち始めていた若林は、一も二もなくハイジャック闘争への参加を表明したが、もう一人の長髪の男は頑として首を縦に振
ろうとはしなかった。
「一緒にいこうや」
「秋にはまた戻
ってくるんやから」
仲間達が入れ替わり立ち替わり説得を続けても、最後まで彼の意志は変
わらなかった。
「髪を切りたくありません」
北朝鮮は労働者の国、プロレタリア独裁の国であり、そうである以上、長髪のまま通すわけにはいかないだろうーーその場にいた誰もが、実際には北朝鮮のことなど何も知りはしなかったのだが、それでも「労働者の国」というくらいのぼんやりした知識
はあったのである。

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